2014年以来2度目のJ1リーグを戦う徳島ヴォルティス。
第18節湘南戦を終え、リーグは約3週間の中断期間に入った。
前半戦を残りの1試合残している状況ではあるが、ひとつの節目といえるこのタイミングで前半戦の総括をしたいと思う。
甲本HC指揮による10試合
新型コロナウイルスによる入国制限によりポヤトス新監督の合流が遅れ、第1節~第9節と繰り上げ開催された第18節の計10試合は甲本HCが指揮をとる形となった。
練習でのリモート指導はあったものの、試合は現場スタッフに一任する方法を取ったため、昨年から多少の変化は見られたものの、昨年までのリカルドサッカー色も濃く感じられる内容であった。
慣れ親しんだやり方のため選手の理解度も高く、J1クラブ相手でもポゼッションで上回り、先制点を取る試合も多かった。
川崎や横浜FMなど強豪クラブ相手には個の能力などで力負けすることもあったが、コレクティブさでは決して見劣りしなかったと言えるのではないだろうか。
逆に大きな課題として突き付けられたのは個人の能力差だろう。
大半の選手がJ1でのプレー経験がなく、J2とは違う相手のスピードや強さに飲まれてしまうシーンが多々見られた。
442で組織的に守り、完璧に崩されて失点というのはほとんどなかったが、徳島の失点パターンとしてかなりの数となってしまったのが「セットプレー」と「自陣でのミス」である。
最終ラインに怪我人が多かったことで昨年中心であった内田やドゥシャン、石井ではなく鈴木大誠や安部といった若手が出場時間を伸ばした、この2人に加え福岡も2CBでの経験はさほど多くはない。
そのためJ1の高い個の能力相手に競り合いや駆け引きの部分で負けるシーンが目立ち、特にセットプレーでは顕著に表れてしまった。
さらにレアンドロ・ダミアンや前田大然などスピードや強度でリーグ屈指の相手に最終ラインでボールを奪われ失点という形も毎試合のように見られ、経験実力共に不足していることを露呈してしまった。
ポヤトス合流後の8試合
ポヤトスの初指揮となったのは第10節鹿島戦。11連戦の5試合目というタイミングでの合流、さらに相手は監督交代して初戦という難しい状況での采配となった。
リカルド色の強かったこれまでから、選手のポジショニングやビルドアップの方法など目に見える明らかな変化がもたらされた。
これまでの右肩上がりな配置ではなく岸本も最終ラインで組み立てに参加することが多くなり、ボランチは落ちることが減り攻撃時は前線まで出て行くことも増えた。
就任後は新しいやり方が噛み合わずボールを前に運べないシーンが多く、リーグ戦4連敗となってしまった。
その後の広島戦では粘り強く勝利し、名古屋戦では2位相手に互角以上の戦いを見せるなど、徐々にチーム状況を向上させていった。
守備では個人のミスでの失点は相変わらず目立つものの、組織的に守りきることは出来ている。
とりわけCBに足元の上手い福岡ではなく高さと強さのあるカカやドゥシャンを置いたことはセットプレーでの失点減に繋がっている。
前線からのプレス強度を保てている点も守備面では大きい部分である。
しかし高い能力の選手が相手となると局面で奪い切れずピンチを招くシーンも見受けられる。
G大阪戦での1失点目が例だが、個人の能力ではまだまだ向上していく必要があるだろう。
一方で攻撃面においては課題の多さを感じる。
最終ラインで奪われての失点が頻発している状況を鑑みて、相手のプレスが激しい状況では無理に相手を誘い出すパス交換は止め、シンプルにターゲットへ蹴る方法に変更している。
これにより相手を押し込んだ状況で攻める場面が多くなり、崩しの質というのが一層求められるようになった。
ポヤトスの攻撃の狙いとしては、中央で選手間が近い距離をとってコンビネーションでの突破だろう。
湘南戦で宮代がPKを取ったシーンが成功例だが、現状は仕掛ける一歩前の段階でのパスミスが目立ち、攻めきれないシーンが多い。この辺りは中断期間で改善して欲しいところだ。
ポヤトス体制で得した選手、損した選手
ポヤトス監督合流後、選手の選考基準もこれまでとは異なる部分が多い。これにより出場機会が増えた選手と減った選手がいる。ここではポヤトス体制下で得した選手と損した選手を見ていこうと思う。
得した選手
・鈴木徳真
ポヤトスのサッカーで重要な要素として、「セカンドボールの回収」と「ハイプレスからのボール奪取」がある。
昨年は展開力のある小西がレギュラーポジションだったが、現在は運動量と球際の強さでポヤトスの求めるキャラクターに適合した鈴木徳真が不動の地位を築いている。
もちろん昨年までに比べポジショニングやゲームメイクなど個人としてレベルアップしていることも大きい。
・ジエゴ
左SBは田向や吹ヶなど今年は激戦区となっているが、ポヤトスに最も使われているのはジエゴである。
攻撃時右肩上がりではなくなったことで左SBにも以前より攻撃力が求められるようになったとが最も大きな要因だろう。
セットプレーでの高さやカカとのコミュニケーションというのも理由の一つである。
しかしパフォーマンス面で明確な違いを見せられているわけではなく、ミスも目立つので、まだ地位を確立したとは言い切れない。
・宮代大聖
ポヤトス監督に最も信頼されている攻撃のカードは間違いなくこの人だろう。
甲本さんの時から中心的な存在にはなっていたが、ポヤトス合流後も変わらない存在感を示している。
恐らくだがポヤトスはトップ下のキャラクターにシャドウアタッカーではなくシャドウストライカーを置くことを好むのではないかと思う。
簡単に言えば組み立てや突破よりも決定力。
シュート技術に加え献身性と受ける上手さも兼ね備えるポヤトス好みの選手と言えるだろう。
損した選手
・渡井理己
先述したトップ下に置くキャラクターの好みでポジションを奪われる形となったのが渡井だろう。
だがそれ以上に今季のパフォーマンスの低さが理由になっていることも間違いない。
現状J1のスピードと強度に対応しきれておらず、川崎戦では田中碧のマークに何も仕事が出来なかった。
最近はダイレクトプレーが増えるなど試行錯誤の跡は見られるが、まだまだチューニングは合っていない。
それに加えゴールやアシストなど数字を残すプレーで昨年までよりもっとレベルアップ出来ないとポジションを奪い返すことは出来ないだろう。
・田向泰輝
先述した左SBにより攻撃性能が求められるようになった点でポジションを失ったのが田向だと言える。
ベンチにも藤田征也が選ばれているように本人のパフォーマンスとは関係なく居場所を失っているように感じる。
ただジエゴのプレーにムラがあることを考えると、今後チャンスが全く来ないということはないだろう。
・浜下瑛
甲本HC指揮時はかなりの出場時間を得ていた浜下だが、ポヤトス合流後はベンチ入りすら出来ない状況が続いている。
杉森や西谷など怪我人の復帰やバトッキオの合流などの要因もあるが、小西の右SH起用など役割の変化でポジションを失った節もある。
2ボランチ+トップ下or右SHで中盤逆三角形の配置になることが多いなかで、ポヤトスは右SHにボランチかシャドウストライカータイプを置く傾向にあるので、活路があるなら杉森と同じように左SHか、岸本のようにSB転向ではないだろうか。
・藤田譲瑠チマ
藤田譲瑠チマは鈴木徳真とのポジション争いで負けたというのが一番だが、バトッキオの加入でベンチ外にまで追いやられてしまったのは気の毒である。
攻撃面ではまだまだ課題があり、出場機会が減る直前はミスも目立っていたが、鈴木徳真が良すぎるというだけでジョエルのパフォーマンスが特別悪いわけではない。
バトッキオのプレーは現状良いとは言えないが、監督がオーダーして獲得した選手だけにここが外される可能性は低いのが悩ましい。
後半戦展望
難しい状況のなか合流し、戦術も十分に落とし込めないなか連戦を走り抜けてきた徳島にとって、この中断期間はキャンプ的な位置付けとなる重要な時間になるだろう。中断前と後で選手選考含め全く違うチームになっている可能性すら考えられる。
徳島ヴォルティスは現在18試合を消化しているが、ホーム8試合、アウェイ10試合と、ホームゲームを多く残している状況にある。
中断期間でチームの完成度を高めることができれば、ホームゲームの多い夏場に良い勢いで挑めるだろう。
現状降格圏にはいないが、決して安心できるような位置ではないだけに、この中断期間を上手く使い、さらに上を目指せるチームとなることを期待したい。